女の首を、手の上に乗せて歩いている夢。

コンフィにする巨大な豚のすね肉をノコギリで分断している写真を見て、それがロマン派の絵でユーディットに斬られた首と混ざり合って、手の上で女の首になった。それほど大きくない、たぶん五百グラムくらい、首の断面はライス詰めみたいだ。

弱い雨が降っていて、左手に傘を持ち、右手のひらに首を乗せて歩いていた。途中、傘を失くして、あたりを見回すと店の軒下に男女が立っている。格闘家のような逞しい体躯の男とほっそりした美人の女のおそらく夫婦だが、男が手にしている傘が、あれがたしか僕の傘に違いない。彼らは傘をその場に置いて、盗む気はなかったということを何らかの書式にしてエビデンスとして残すことに躍起になっている。僕は和やかな態度を装って彼らに話しかけた。その傘…と一言言うなり、二人は非常に狼狽して萎縮した表情をこちらに向けた。正直何をそんなにビビッているのかわからない、悪気がなかったのは何となくわかるし、これだけ美男美女なのだからもっと堂々としていればいいのに、オドオドした感じが全然似合わない二人だった。

これ僕の傘なので持って行きますねーと朗らかに言うと、ああどうぞどうぞ、と二人は何度も頷き笑いを浮かべる。よくみると女の髪は半分くらいは白髪で思ったよりも若くないのだ、遠目にはそうみえなかったが。

こちらも笑顔でどうもと会釈しつつ傘を挿して再び歩き出す。ふと見ると、女の首も薄っすらと笑いを浮かべているのだ。へえ、表情が変わるのか…と思う。ほどなくして笑いは消え、元の無表情に戻る。仰向けの状態で寝ているだけではないかと思う。

やがて、首が少しずつ萎んできて、色も少し変わってきたようだ。布で包んでビニールに入れてぶら下げたら、さっきよりも明らかに重さが減っている。やがてぽたぽたと水が地面に漏れ出す。これ以上傷みが進むようなら、どこか道端のそのへんに捨ててしまいたいと思う。