今週はずっと忙しくて、水泳も一週間以上やってない。それで一昨日くらいから、喉の調子がいまいちだとは思っていて、昨日の午後あたりから、じょじょに風邪っぽさを自覚し始め、しかしそれでもまだ軽微な感じなので、これですぐ守りに入るよりは、むしろこの後、強引に水泳するとか、ひさしぶりにじっくりサウナに入ってさっぱりするとかすれば、けっこう持ちこたえるんじゃないかと思っていたら、先週酔って道の真ん中で土下座してたヤツからメールがあって、今日もまた飲もうと言うので、いや、この体調で酒はどうなのかと思って、しかし了解の返事を出してしまって、仕方がないので秋葉原へ向かう。電車に乗っていると、たしかに身体全体が風邪に冒され始めたことがはっきりと感じられる。独特の憂鬱さにつつまれる。しかしいよいよ終盤にはいったカポーティ「冷血」を読み始めると、その面白さで気分はすっかり良くなって、それどころか高揚して、血行も改善して、まったく元気そのものになった。ペリーとディックが、死にかけた爺さんと少年をクルマに乗せてあげてからの下りのところ。あそこのシーン超いいわ。そしたらあっというまに到着して、相手と落ち合って、人気のある神田の日本酒の店に、勿論無予約だけどものは試しでのぞいてみたら、幸運にも空き席がひとつあって、まだ我々も捨てたものではないな、みはなされた訳でもなければ絶望する必要もないな、と互いに互いの幸運をたたえあった。先週のことを色々話していて、自分が記憶している先週の行動の流れというか、どの店に行ったっけ?と聴いたら、自分の記憶にある最後の店のあと、さらに寿司屋にも行ってることが判明した。うそだろ、それはまったく記憶にないわ。本当のことなの?と聞くが、たしかに本当だという。じゃあ何か食べたのかね?何食ったっけ?と聞くと、そこまでは自分も覚えてないという。へぇ、そんなことってあるかねえ、でもそういわれれば、そうだったような気もしないでもないけど。はい、いやまあ、酔っ払ってましたからね。自分も相当のんでたから記憶は怪しいですけど、寿司屋に行ったのは事実ですから。とか。それから一時間もした後だったか、杯を重ねながら自分の声がじょじょに変容していくのがわかった。そしてたちまち、それまでの無意識なやり方では、声の半分以上が掠れてざらざらとした空白になってしまい、マトモな発語ができなくなってしまった。ちゃんと喋ろうとするとかなりしっかりと肺から喉奥へ空気を送り込んであげないと、出だしは良くても末尾まで音が繋がらない。そんな、回らない輪っかを無理やり回すような喋り方の、聴こえてくる声が自分で面白くて、それでのべつまくなし、無意味なことを喋って喜んでいたが、相手はやや引いた感じで、まじで大丈夫なんですか、急にそんなに声が変わるってありえますか、奥さんに怒られませんか、などと言う。

 翌日朝もすごい声のままなので近所の病院に行く。今年はほんとうによく病院に行くものだ。待合席に座ってると、後ろで老夫婦がけっこうでかい声で喋っていて、おとうさんの方が検査が終わってまずまずの結果だったらしく喜びを抑えきれない感じで声がでかくなっているようで、それを聞いてる婆さんの方は元々声がでかいようだった。問題ないんだってさ。まあタバコはダメだけどさ。それは当たり前だけど、いや、でも酒はいいんだってさ。酒はばんばん飲んでくださいって、先生が言ってたから。酒もタバコもダメだっていうなら、生きててもしょうがねぇからさ。酒もタバコもダメなら、そんなの地獄と一緒だよ。などと喋っているうちに、会計の順番が来たようで名前を呼ばれたら、まるで子供のように元気の良い返事でそそくさと窓口に向かう。酒はばんばん飲んでくださいとは、医者は言わないだろうなあと思う。