DVDの「ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン」を観る。思わずうおおお、、と唸り声が出るほどの素晴らしさ。横顔と正面顔。部屋の手前と奥。光の入って翳って。ピアノの調律と盲人と揉め事とがいっせいに起きている室内。挨拶して買い物袋を置いて車のキーを適当に投げ捨てて。上着を脱いでマフラーを取って電話に当り散らして。…これはいつまでも観ていたい。ホウ・シャオシェン。かなり久しぶりに観た。
部屋にあるCDをスリムなソフトケースに入れ替えるという作業を何ヶ月か前から少しずつやっていて、今日たぶん100枚ほどやったので、さらにソフトケースをもう300枚ほど注文する。全体量に比してまだ微々たるしか入れ替えられてないが、それでもかなり劇的な効果がある。それまでCDだけで占有していたスペースが大きく空き始める。そうなるとさらに部屋の片付け魂に点火された思いにかられる。
ついでに、売りに出してしまってもいいCDもチョイスした。。ちなみに所持CDを売ろうと思ったのは、生まれてから生きてきて、今日がはじめてである。過去に手術を施すのだ。草木も生えないくらいの荒涼とした砂漠並みにまでなるように、勇気を出してありとあらゆるものを道具として揃えなければならないのだ。でもなかなか、手放してもいいと思うものはそれほど多くない。結構モノに執着があるようで、捨てられないタイプだというのが自覚される。ついでに本も、なるべく手離そうということで、クローゼットの奥にあるのを全部ひっぱり出してきて、これはいいやと思うのは段ボール箱に詰めていったのだが、こちらも予想の半分以下しか捨てられない。こんなんでは、一日かけてやってる意味が無いに等しいが、でもしばらくすれば、また捨てる気にもなるかもしれない。もう少しゆっくり、ダラダラやろう。そのまましばらく様子見である。
休みの日は最近、自転車に乗って近所の立ち食いソバやに行ったり、酒屋に行ったりすることが多いのだが、この自転車のタイヤが、空気入れで空気を入れても、すぐに抜けてしまうので、家から歩いて一分のところにある自転車屋で見てもらおうと思って出かける。家から一分くらいの場所、ということは覚えていたのだけど、あまりにも近すぎて、かえってどのあたりにあったのかが明確に思い出せない。しばらく、ひたすら家の前の道を進むが、それらしき店はない。かなりの距離来て引き返したら、やはり通り過ぎていた。あれ、どこだったけな、と思った地点よりも相当手前の、ほとんど家の前に店があった。
ガラス戸をがらがらと開けて、すいませーんと呼ぶ。古めかしくて薄暗い店内は無人で、おびただしい数の自転車の部品が積み重なり錯乱しており、自転車が壁や天井や床に並んでいたり吊り下げられていたり、如何にも昔ながらの、修理などが得意な自転車屋という感じである。しかし呼びかけてもまったく反応がない。ごめんくださーい。すいませーん、と何度か呼ぶ。店に来て、こんな風に店員を呼ぶなんて、いったい何十年ぶりのことかと思う。昔、僕が小学生の頃は、おもちゃ屋でもお菓子屋でも、すいませんーんと呼ばないと、店の人は出てこなかっものだ。店から、その家の居間が見えて、コタツでテレビを見てる店のおばさんを呼び出したり、そんなものだったけど、最近そういう店には、用事もないしめったに行かなくなった。
しばらく呼んでも、誰もいっこうに出てこないので、仕方がなくあきらめた。一旦家に戻って、自転車を置いて徒歩で買い物に行くために出直す。で、歩いて再度自転車屋の前を通ったら、中に人が居た。ドアを開けて、すいません、自転車のタイヤが、空気が抜けてしまうんですけど、見てくれます？と聞いたら、はい、いいですよ、とのことなので、すいません、では五分したらまた来ます。と言って、また家に戻る。自転車で店まで来て、タイヤのここが、空気入れで入れた空気がすぐに抜けてしまうのだと言うと、まずバルブがダメです。この内側のゴムを交換しますのと、あと中でゴムがねじれてると空気入れても破裂しちゃうから、いまちょっと調べます。…これね、中ちゃんと見ると、別費用でお金かかるのね。バルブだけなら、300円ね。バルブだけとりあえず替えときましょうか。これ、中まで見ると、700円掛かっちゃうからね。
安いですね！と言って300円払ってタイヤの前も後ろも充分に空気の入った自転車にまたがって走り出す。信じられないくらいの安定感。路面のでこぼことか、まったく感じない。自転車のタイヤにちゃんと空気が入ってるって、こんなに快適なのか。空気入りタイヤを際素に発明したのはダンロップだ。ダンロップが当時「車輪の周囲にゴムを付けて、それを空気で膨らませて走ったら快適にならないかな。」と言うと、仲間は「車輪にゴムなんかつけて空気入れて、そんなので走ったら、ぐにゃぐにゃしちゃってまともに走れないだろ。」と反論。しかし、現実はおそろしく快適な結果となった。
