髪を切ろうと思って店に電話して、いつもその店には「○時に行きたい。」ではなく「何時に行けばいい?」とうかがって、向こうの都合にこちらが合わせるという主従逆転状態になってからもう何年も経つのだが、今日は「これからすぐなら、どうです?」と言われて、ややあわてて家を出た。駅前まで自転車で行く。天気は晴朗。しかし寒い。全身が冷気につつまれて唸り声が出てしまいそうなほどの寒さ。やや早めにペダルを漕ぐ。けっこう疲れて、息も早くなるが、それくらい一生懸命体を動かしていないと寒くてむしろ辛い。


店を出るとき、普通に「来年もよろしくお願いします」みたいなことを言われる。たしかに次に来るのはもう来年だ。自転車でさらに走って、隣の駅まで行って、あたたかいソバを食う。食べ終わって外に出たら、あたたかい食べ物を食べるとどうしてこれほどまでに体内の温度は上昇するのか実に不思議なほど、まるで寒くなくなる。着ていたコートを脱いで前籠に入れて、長袖シャツ一枚で、さらに自転車で行く。食材や酒を買って帰る。


1979年のアニメ「赤毛のアン」の1話〜5話までDVDでみた。小学生のときに、それなりに一生懸命見ていたもの。当時の日曜日の夜7:30からやっていた「世界名作劇場」シリーズの中では一番印象深いものであった。で、久々にみたら、意外なほどゆったりとしたテンポで話が進むことに驚く。マシュウが駅でアンと出会い、グリーン・ゲイブルズまで馬車で向かう間、アンはマシンガンのように喋り続けて、道中うつくしい風景を見て、うっとりとなって自分の世界に入ってしまって、そのまま1分くらい無言でぼんやりし続けたりする。完全にリアルタイム描写が続く。それでグリーン・ゲイブルズの家に着く前に1話が終わってしまう。2話以降も、とりあえずその日は家に泊まって、翌日マリラとスペンサー家まで行く途中のアンの生い立ちを語るシーンもすごくたっぷりとあって、色々あって結局アンがグリーン・ゲイブルズに住むことになるまで、すなわち一日目と二日目の出来事だけで5話分の時間がフルに使われる。アンは始終よく喋るが、沈黙の時間もそれなりにしっかりと描かれていて、マシュウやマリラたちの、大人だけの時間もまったく省略せずに描かれ、当然グリーン・ゲイブルズのうつくしい風景の描写もそうだから、そういうことになる。古い作品だからそのゆったりとした時間の流れに耐えられるだけの「絵」があるわけではないのだが、それでもやはり今見ても面白い。というか、今だから面白い。また、マリラ・カスバートという人物がひたすら素晴らしく、この人物ばかりみてしまう。


小学生の頃、たしか家族で見ていたとき、「空想の広がる余地」「きらめきの湖」とか「喜びの白い道」といった言葉が出てくるたびに、そばで一緒に見ていた母親が爆笑していたのを思い出した。で、そのあとアンの口真似をして「私のこと、コーデリアと呼んで下さる?とか言うのね!」とか言ってまた笑うので、うるさいなーと思っていたものだ。


また、オープニングテーマ「きこえるかしら」とエンディングテーマ「さめない夢」はどちらもじつに素晴らしい曲。だいぶ前に、この曲が、ある日とつぜん思い出されて、それで「赤毛のアン」もう一度見直してみたいなあと、いつの頃からかぼんやりと思っていたのであった。