雨風


雨と冷たい風。冬の厳しさの凝縮されたような夜である。電車も遅れたり運転見合わせたり、混雑も酷いし、ホームを歩くと凍えそうになる。帰りもつらい。風が強くて傘が壊れそうだし、寒いし、濡れるし、疲れる。イヤホンを濡れた路面に落とす。何もいいことがない。なさけない。思わず、ははははと笑いが出る。前を歩いていたおじさんが急に立ち止まって、不恰好な姿で傘の柄を脇に挟んでかろうじて抑えながら、ライターを両手で囲って、たばこに火を着けようとしている。何もこんな酷い天候下で、その行動じゃなくてもいいのでは、と思うが、今吸いたいならしょうがない。傘はもう、脇からずり落ちて真横を向いてしまって、剥き出しの頭や肩や背中に雨を直接受けながら、おじさんはしばらく頑張って、なんとか煙草に火をつけ終えると、ようやく一仕事終えた感をただよわせつつ、思い切り盛大にぐーっと吸い込んでぶわーっと吐いて、この激しい雨風のなか、猛烈にリラックスして帰路の喫煙を楽しみながらぐいぐいと歩き去る。