「細雪」が、あと200ページくらいか…。そろそろ、終りに近づきつつある。しかしまあ、これは、こんなに長いこと、どこまでも静かに狂ってる、と言って過言ではない。書かれていることは、読んでいる我々とは別の世界のことだが、そんなのはあたりまえのことだが、「細雪」ほど、そのことの徹底を感じさせるものは少ないと思われる。つまり、この世にある大抵の書かれていることとは、読んでいる我々といい感じで結託しており、なんらかの共同作業を誘うようなところがどこかにあって、それが親しみだし、ちょっとした優しさでもあるのだが、それに較べると「細雪」は一見当たりのやわらかい何ということもない印象でありながら、どこまで進んでもこちらのことなど一瞥もしない。何の呵責もない。たぶんこちらに人がいると思ってない。目の前の僕を虫か植物かなんかかと思っていて、それでそのまま、平然と勝手に進んでいく。これほどまでに堂々と無視されてしまうと、それがあたりまえになって、しまいにはいつまでもそのままでいたくなる。しかしいよいよ、もうお別れのときが近づいてきたようだ。もう一週間くらいは掛かるか。最後、がつがつと読み尽くしてしまわないように注意である。