濁り


泳ぐにも気をつかう。間隔が重要。それぞれ遅い早いはどうしてもある。プールのコース内は片道一車線だから、早い人に譲るのだけれども、譲り方がけっこう難しい。端まで来たらターンせずちょっと待つ。すぐ後ろの相手がターンして先に行くのを見届けてから自分も行く。しかしそれが必ずしも上手くいかない。相手もこちらを先に行かそうとしたり、あるいは自分以外にももう一人立っていて壁が空いてなくてターンできないとか、色々ある。そもそも、延々泳ぎ続けたいのか、ざーっと泳いで休んで、またざーっと泳いでを繰り返したいのか、そのペースも人によって違う。各々が思い思いにテストランしているので、それぞれ気持ちよく譲り合いながら公共的にやりましょうというところだが、そんなに社交的な雰囲気はない。皆がスイムキャップかぶってゴーグルしてるから、お互い顔もよくわからないし、無表情、無感情で、なかなかコミュニケーション的空間とはいえない。ある意味通勤電車以上にディスコミニュケーション的に、皆が黙って勝手にやってる感じだ。でも僕も、もう三ヶ月以上ここに通ってる。なんとなく登場人物たちを識別できるようになっている。身体の体型と、水着の柄と形と、ちょっとしたしぐさで、なんとなくだ。そしてそれなりにその場に慣れてきて、身体全体を汚れに浸して、その水の濁りにすっかり馴染んで来ている。