東上野

仲御徒町から春日通りを歩いて五分ほどのビルのオフィスで働いていた。二十年近く前だ。昼休みになると周辺でさっさと昼食をすませて、あとは休み時間いっぱい、ひたすら散歩していた。だから東上野界隈の路地は今でもよくおぼえている。と言っても、何の変哲もない只のビルの谷間の道に過ぎない。地元で古くからやっているようなわりと小規模な事務所とかが集合している感じの、静かで地味なオフィス街である。点在する喫茶店や食堂なども長年営業し続けてきた感じの雰囲気がある。自転車の人もたまに走ってる。すし屋だかそば屋の出前のバイクもたまに走る。こう書くと如何にも東京のいい感じの風景っぽくもあるけど、実際はそうでもない。微妙にふつうで何の変哲もないのだ。ただのビルの影で薄暗いだけの路地なのだ。しかしここを歩いているとき、景色を見ているのが楽しいというよりも、あの窓の中の会社で働いているのが仮に自分だったらとか、そんなことを一瞬だけ想像するのが楽しかったのかもしれない、などという事を今ふいに思い出して、だとしたら、あのときあの窓の中の会社で働いているのが、もし自分だったのだとしたら、すでにもうあれから二十年、あそこの事務所にお勤めであって、それはそれで長い時間が過ぎ去ったのだなと、感慨深い思いになる。