悪事


朝、起きて「あ、昨日は、ずいぶん呑んだ…」と思った。まずは水を飲んだ。コーヒーを淹れて、飲んだ。そして今日は、夜になったら、また呑むのだ。予約してある店に行くのだ。なんとなく、うんざりした気分になった。バカではなかろうかと思った。自室で昨夜帰宅して脱いだ自分のコートが掛かっているのを見た。コートはあるけど、いつものところに、マフラーがないじゃないか。さては、酔って歩いて帰る途中で、落としたのではないかと思った。だとしたら、ああ、馬鹿だ。この上なく最悪だ、と思った。部屋の中を一通り見渡して、やはり無い。やっぱり落としたのだ。酔ってモノを失くして、そんなことを何百回も繰り返して、何なのか、ごみくずか俺は。すでに起きていた妻に「昨日の夜、マフラーを落としたらしい」と言ったら「そこにあるじゃないの」と言うので、見るとソファーの脇に掛かっていた。おお!そうだったのか、落としてなかった。こんな場所に、脱ぎ捨てていたとは…。そうか。…何事もなく、無事で良かった。自分が、気づかぬうちに罪を犯していなかった、気付いたら法秩序の向こう側にいる悪夢が、現実ではなかった、それが判明して、まだ真人間の側にいられたことがわかって、心底安堵した。そうなると、俄然元気になってくる。夜を待つ身を引き受けようという気になってくる。


夕方から外出。…しかし今更ながら、横浜は遠かった。ビデオ返却のせいで渋谷経由だから、さらに遠かった。ただ飲食のためだけに移動する距離としては、ほとんど不条理感さえおぼえるほどに、あまりにも遠かった。この距離を毎日通勤しているなんて我ながら信じられないと思うが、まあJRだともう少しスムーズなのだが。


で、店を出て、結局帰りの電車は、またゴキゲンで帰った…。