夕日


JRの有楽町駅を出てマリオンを抜けて六丁目の方角へ向かった。いつも銀座を歩くときに頭の中で思い浮かべる地図では、銀座通りや昭和通りが「横の線」で晴海通りが「縦の線」の格子図上を、小さい自分が目的地まで少しずつ移動していく。最近はスマホのGoogleMapを見ることも多いが、それでも脳内に再生される自分の移動イメージはそれだ。ところが今日はなぜか、脳内イメージと現実の方角が、完全に90度ずれていて、そのせいで四丁目の交差点に来たとき、和光や三越の配置関係がどう考えてもおかしいと思って、一瞬だけ目の前の交差点を別の場所に勘違いしているか、あるいは別の現実を見ているのかと思った。その錯覚はただちに補正され、金曜日の夜の交差点は人でごったがえしていて、後ろを振り向いて嬉しそうな男女の顔を何度も見た。すぐ前や脇でも信号が変わるのを待つ人々が斜め上を見下げて、次々とスマホのカメラを空に向け始めるので、何かと思ってこちらも同じ方角を見上げると、夕日が赤々と空を染めているだけのことだ。皆の邪魔になりそうなので僕だけ道の脇にずれて群集から外れる。それで僕もスマホを空に向ける。