帰路

最寄り駅に着いたらすでに雨はあがっていてほとんど寒くもなかった。コートとジャケットの前釦を開けた。湿気の篭った空気が頬や首筋に触る。線路の架線下には居酒屋が並んでいて、来週開店するらしい新しい店が内装工事中で、煌々と照明が光っている中を無数の人が作業している。焼き鳥屋かあ、たしか線路の反対側にもあったなあ、焼き鳥なあ、あんまり、食べないなあ、などと思う。最初の何串かがとりあえず美味しい、だけで、それを過ぎると、次第に飽きてくるんだよなあ、と思う。駅前を過ぎて暗い住宅街を通り抜けていくとき、沈丁花が少しずつ花を付け始めている箇所があって、そこで立ち止まると、ふっとさっぱりした香りが上ってきて、ああ、いい香りだなあ、と思う。でも、このすぐ傍に、デリバリーのピザ屋があって、そのせいで、この沈丁花はいつもあの店から出る匂いに、負けてしまうのだよなあ、と思う。可哀相というか勿体無いというか。