枝豆は八百屋でもスーパーでも、総菜コーナーに置いてあるやつを除いては、秋冬春は手に入らないものだが、見ると沖縄県産の枝豆が並んでいたので、それを買っていつものやりかたで茹でた。しかし真冬に茹でたての枝豆を食べるのははじめてだと思う。口にしてすぐに、あー、これが夏か、と思う。たしかに、これだった。鼻に抜けてくるこの豆の香りだった。これが枝豆である、というよりも、これが夏の正体だったのだ。この香りと味わい、舌に直接あたる塩の粒と茹でられた水分が口内に広がってただちにビールが流し込まれるのを待っている時間こそが。ほとんどタイムマシンで時間の遡行に成功してしまったかのような不思議な体験をした。