校舎

歩いていると雲が少しはれたようで、出掛けたときよりも明るさが増した気がする。クチナシのすぐ脇だと何も香らなかったのに、弱い風向きの少し先で焼き上がった甘い菓子のような匂いがそこで待っていたかのように我々をつつむ。中学校の脇を通るとき、グラウンドではいつものようなサッカーの練習試合、校舎の中からは吹奏楽部の練習が聴こえる。みんな真面目、サッカーをやってるあの連中は、あの閑散とした場所で、埃にまみれて、なぜあれほど真面目に、わき目もふらずに一つのことだけに集中してるのか、遠くのかけ声の残響を聴きながら、ご苦労なことだ、きっと、反復練習が大事なのだ、それは楽器だって一緒、吹奏楽のホルンとフルートが、あるフレーズだけを何度も何度も繰り返して、それが頼りなく始まって中途半端に消え入るような旋律なので、まるでやる気のない二人が惰性あるいはふざけた遊びで、その無意味さをあえて繰り返しているようにも聴こえるけれども、きっとそんなことなくて、あれで真剣な練習に違いない。アンサンブルのためには個々人の努力が肝要、ご苦労なことだ。食品売り場は低調、魚介売り場がとくに低調。帰りに再び中学校の前を通ったら、門の脇に猫たちが三匹も寝そべっていて、こちらの視線に気付いて、煩がるかのように歩き去って、少し先の何もない地面にごろんと寝転んで、何度も寝返りをうってのたうって、やがて太い横腹を晒したままその場に落ち着く。今度見かけたら、少しお酒をあげようかしら。猫は酒を飲むのだろうか。