犬が、こっちに向かってくる。
左にいる老人が、その後ろで空を見ている。
その向こうに、遠ざかっていく女性の後姿が見える。
歩き去る女性が、道路を渡りきるのを待っている車が一台。
男性が一人乗っている。助手席にも乗っているかは、はっきり見えない。
左折するのか直進するのか、ウィンカーが見えなくてわからない。
やがて、動き出して、左に曲がった。女性を追い越した。そのまま走り去る。
犬に、いきなり胸をどんと突かれた。両前足で圧された。
僕は後ろに倒れた。
自転車が来て、速度を落とさずに僕の上を乗り越えて走り去った。
タイヤのゴムが身体にめり込んで、なぜかなつかしい感じ。
顔の上を踏まれた。あと腕と、下半身もたぶん。
そのまま仰向けになって待っていた。
飛行機が飛んでいた。空をゆっくりと動いていく魚の腹のような。
さっきの犬が木にぶら下げられてもがいている。切なそうな鳴き声が聴こえる。
僕はまた疑心暗鬼の思いに苛まれる。
しかしすぐ気を取り直す。もうお互いに裏切ることなど出来ない。
もう一蓮托生だ。お互いに急所を握り合ってるんだ。
そう思うと少し気が楽になる。