元の世界

車通りに面したアパートに住んでいた。ベランダから見下ろすと、路上にプレゼント用に包装された大きな箱が落ちているので、あれウチのかな?拾ってこようか?と傍らの妻に言って、靴を履いて玄関を出て階段を下った。しかし路上にさっきの箱が見当たらない。おかしいと思って見上げると、自分の部屋のではない窓が並んでいる。さっき見下ろした場所に来たつもりが、ぜんぜん別の場所に立っているらしい。建物の構造、または下りた階段の作りが、よほど変なのだろうか、なぜこんなことになるのか理解に苦しむ。仕方ない、とりあえず部屋に戻ろうと思って来た道を引き返すのだが、まず建物一階の何もないガランとした薄暗い空間の奥に階段があって、はて、ついさっき、こんな場所から降りて来たのだったか?と不思議に思う。一階分上がってみると、さまざまな衣装に身を包んだ若い男女がいっぱいいて、どうやら演劇か何かのオーディションが行われているらしい。さらに上のフロアが、このあたりの賃貸住宅を取り扱う不動産屋らしく、あなた自分の家がわからなくなったのであれば、上の店で聞いてみたらいいじゃないかと誰かにアドバイスされた。

夢が、内容にあまり関係なく、ときに異常なまでに強烈な印象を残すのはなぜなのか。強烈な印象とは、より正確に言うなら、「たぶんあちらの世界に生きている自分のほうが、少なくとも今ここよりも、よほど現実の世界の中の自分だったとしか思えない…」と確信できてしまうような印象ということだ。だからそれは夢の印象と言うよりも、それが夢であったことを後から自分に言い聞かせて強引に納得させた後でかすかに残る不条理感、というニュアンスの方が近い。