納屋で

目が覚めて、今のが初夢だったんだ…と思って、まどろみの中でしばらくの間、さっきまでのことを思い出していた。うちの実家の近くだと思う。重苦しさをたたえた日本家屋、黒い柱、柿の木の墨で描いたような幹、木の陰の苔でまだら模様の自転車置き場、未舗装の車寄せ、埃っぽく中心のない庭、その傍ら、古くからある農家の敷地内にある藁葺き屋根の巨大な納屋の前にいる。学校から帰る途中かもしれない。冬の寒さ、薄暗い空、沈滞した重い空気が自分の全身に向かって垂れ下がる。ところどころ雪の残る、未舗装の路。靴の先が泥に染まっている。この家の子は、女子が二人で、一人は同じ学年の二組で、もう一人はたぶん二年下だ。下は知らないし、上もふだんは挨拶どころか口もきかない、別に友達でもなんでもない子だ、でも今日は、今ここに、目の前にいるこいつは、手すりの取れた、何に使うのかよくわからない台車に乗って、まるで無表情な顔を向けて、こちらに近づいてくる。誰かに引っ張ってもらっているみたいに自動的に、機械仕掛けで動作しているかのように、台車の上に突っ立ったままの姿勢で、こちらに向かって、すーっと近づいてくる。速度がけっこう早いので、僕はあとずさりして、納屋の入り口から真っ暗な中へ入り込む。入ると薄っすらと見えてくる農機具や藁などの雑然と置かれたさらに奥で、角の牛乳屋に置かれていたはずのガラス張りの冷蔵庫がなぜかあって、その中に人が、無理に身体を丸めた状態で寝そべっていた。まるで死体を押し込めて隠したみたいな、ありえないような状態だったけど、それが死体ではないとすぐにわかったのは、寝そべって身じろぎもしないその姿でありながら、その顔はまともにこちらを向いていて、やや細く空けた目がこちらをしっかりと見据えていて、その表情にかすかなほほ笑みさえ浮かべていたからだった。見覚えのある顔で、たぶんこの家のお父さんのはずだった。まずいときに来てしまったのだ、お呼びじゃなかった、また出直すべきなのだとはかなり前にわかっていたが、すでに手遅れだと悟ってもいた。台車に乗って、音もなく後ろから迫ってくる娘の気配をすぐ背後に感じていた。