注文

お酒は、色々な銘柄をいろいろ試したいと、思わないわけではないけど、それでも大体いつも同じものばかりを注文しがちだ。お店にもよるし、何を食べるのかにもよるが、だいたいこれまで何度も通っていて、滞在時間も短くて、一、二杯で数皿ぱぱっと呑んで済ませるような店のときは、飲み物はいつも判で押したように同じものばかりの注文になる。失敗を避けたい、安全パイを選びたいという味覚的保守感覚とも言えるのかもしれないが、先日僕の注文を受けた店主が、これはお客さんがいつも注文するから、ほとんどお客さんのために仕入れてるようなものだよと言うので、いやいや、さすがにそんなことないでしょうとおどろいて相手を見た。でもたしかにこの狭い店で他の客がこれを注文してる声を聞いたことがないし、大して人気が高くないことはわかる。でもいや、さすがにゼロじゃないよ?ちょっとは出るけどね、と店主。でもほんとうに、お客さんほど来る日も来る日もこればっかり頼む人っていないんだから、ほとんど専用の酒だよと言われて、こちらは苦笑いしつつ、いやー…まあ実をいうと自分も、薄々そうかもしれないとも思ってたんですけどね・・と応えた。それを聞いた店主は笑って、いや、お客さんがもしこの酒を頼まなくなったら、うちもこれ取り扱いやめようかなと思ってさあ、いっつも頼んでくれるから仕入れるけど、まあ他にも酒の数なんて数えきれないくらいいろいろあるしね、とかなんとか、遠回しに「もうこれ呑むのやめたら?」的なプレッシャーをかけてくるので、ちょっと…何だそれは、まるで自分ひとりのせいで店が困ってるみたいな雰囲気の話やめてくれます?という感じなのだが、まあこれを機にやめるのも吝かではない。というか、いつも同じ酒を注文するもう一つの理由としては、注文しやすい(間違えられない、忘れられない、言わなくても出てくる)点が、あるとも思う。