推し燃ゆ

「推し燃ゆ」読了。冒頭「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。まだ詳細は何ひとつわかっていない。何ひとつわかっていないにもかかわらず、それは一晩で急速に炎上した」・・・という魅惑的な出だしから最後まで、的確という言葉を先日は使ったが、的確であり、かつキャッチーというか、印象的フレーズというか、立った表現が、冒頭をはじめとしていくつもあって、こういうのが才能ってことなのか…と思った。作品のなかで身体とか火葬とかに絡んで「燃える」というイメージが揺り動かされるせいか、読了後だと「推し燃ゆ」というタイトルにも、以前とは違った深味を感じてしまう。

小説自体がコンパクトであっという間に終ってしまう感じで、その物足りなさはあるし、実際そんなにすごいことがとくに書かれていたとは思わないのだけれども、ただ書き方。居酒屋バイトの様子や就活の家族会議の状況や対話、怖い母の苛立ち、母にすごく気を遣ってる姉、もっともらしいセリフを重ねる父、バイト先、学校の先生、死んだ祖母、彼らと主人公とのあいだに空いてる距離感の絶妙さ、始終きちんと自分を把握しているようで、次第になすすべなく崩落していく心身と荒廃する生活環境、かすかな回生の予感…それらが上から操作するわけでもなく言葉に呑まれるわけでもなく、とても良い按配で上手な波乗りのように言葉が操られている、そんな書き方の巧みさ。

それにしても「携帯をひらく」という言い方で、スマホのことをあらわすのか・・。