麻酔

妻曰く、全身麻酔から覚めたときの感覚は、眠りから目を覚ましたときとは全然違うとのこと。

眠りから覚めるとき、それまでの眠りの時間が途切れたと思う。夢を見ていた見ていなかったにかかわらず、それまでこことは別の場所にいたが、元に戻ってきた感じがある。

しかし、麻酔から覚めるのはそういのこととは全然違って、あれは、眠りではなくて、完全停止というか、あれがどういうことかを説明するのは無理で、そのように指し示すことのできる状態ではない。

あるところから、いきなり私が戻ってくる、というより、いきなり始まる感じ。続きが始まる、ではない、始まるという言葉がふさわしくない、続く、という言葉でもない、とにかくいきなり、意識がはじまる。

それ以前とそれ以後に、ぜんぜん関係がない。脈絡がない。切断の感、切断と言ってもいきなりと言っても違和感があるのは、どうしてもその前の段階が前提にあるような感じになってしまうから。でもそうではない。ほんとうに前段階がなく、いきなり、なのだ。

つまり、死から戻るということになるだろう。それもまたわかりやす過ぎるとは思うけど、それが一番近い。死んでいたけど生き返ったということだと思う。とにかく全身麻酔は経験としては、未曾有である、とのこと。