振れ幅

酢の加減を、ひとまずこれで良いと思えるくらいまで、できるだけ調整してみたい。お汁でも、酢の物でも、このくらいが自分にとっていちばん美味しい、そう思えるベストな按配を知っていたい。しかし、これがベストと思える自分のストライクポイント自体が、その日の気分やコンディションによって、思いのほか揺らぎがちである。そのため自分の口に合う味とか香りをいっこうに決めることができない。お酒もそうで、同じ銘柄を味わっても、そのときによってぜんぜん印象が違って感じたりする。酒を美味いと思うより先に、自分が今そこにいるのかと思う。人によっては、自分が自分に問いかけたとき、毎度毎度、嫌になるくらいに安定した値が返ってくるような、そんな身体感覚の人もいるのだろう。僕の場合はいつまでたってもそうではない、値の揺らぎに気付くたびに、いつもたよりない気持ちにさせられる。針の振れ幅がかたちづくる帯の流れで、これを自分らしきものとみなすしかない。