二人

夜の七時半頃だったか、駅へと向かう人混みのなか、中年男性と小学生くらいの男の子が並んで歩いていた。男性は背も高いが腹回りなどの贅肉も相当なもので、巨大なビア樽をやや細長くしたものが、危なっかしい足取りでゆらゆらと歩いているような感じ。僕よりも年配だと思うが、同年代か年下の可能性もあるのだろうか。子供は小学生くらいだろう。並んで歩く二人の背丈のコントラスト。子供は男性を見上げて何やら必死に話しかけている。そわそわと落ち着きなく、まとわりついたり、少し離れたり、その様子で二人が親子だとわかる。お父さん、じゃあさあ。もし約束してくれたら、お父さん今日、お酒、十四杯飲んでもいいよ。そしたら僕が、許してあげるから。それを聞いたお父さんは、そうなの?へえ、ならお父さん、そうしようかなあ。息子はそれを聞いて、うん、それで明日になったら、明日は十五杯も、飲んでもいいよ。そう言って、ふと身を寄せて、まるで恋人のように自らの小さな手を、目の前にぶら下がってるお父さんの手の中にすべりこませる。お父さんもその手を握り返して、周りは帰宅を急ぐ通勤客ばかりのなかに、手をつないだそんな二人が、二人だけの速度を保ちながらゆっくりと歩いている。なんだかエロティックなまでに甘美なものを周囲にふりまきながら、二人だけの景色の中を散歩している。