駅前は午後九時にもなると、どの店も軒並み閉店して深夜のごとく真っ暗になっているのだが、少し歩いて大きな通りに差し掛かったあたりで、何やらものすごい喧噪が聴こえてきて、それはまるで、この近くに小さなコンサート会場か野球のナイター戦が開催されていてそこに集う観衆の興奮・熱狂する声なのでは?とおもうほどだ。で、その実態が何かというと、都の要請を受け入れてない居酒屋が三店舗ほど、お互い軒を向け合うように開店しており、そこに集っている客たちの、大いに盛り上がってる声の反響なのだ。傍から見て、それはちょっと壮観である。しんとした暗い通りの、その一帯だけが煌々と明るくて、お店の中は大盛況で、テラス席までぎっしりと人が詰まっていて、ほとんどお店そのものがうようよとうごめいているかのように活気づいている。暗く静まり返った周囲とのギャップもあいまって、何か妙な夢の光景を見ているかに思える。これはたしかに、今までにはない新しい景色だなと思う。景色というか境界というか、ある分別の線、あれとこれを分ける線だなと思う。