受給

いますぐ受給か、繰り下げ受給かを、選べと言われた。繰り下げならば、十年後の払出しとなる。年利1.0%とのことでこのご時世ならさほど悪くないとも言えるので、ひとまずそれで手続きした。十年後なんて、さほど遠い先の話でもない。今から十年前のことを思い返すと、はっきりそう感じる。むしろ、あっという間、ちょっと早すぎるくらいの勢いで、そのときが到来してしまうに違いないのだ。でも、それと同時に、十年先まで自分が生きていない可能性だって、充分にありうると思う。でももしそうなったら、そのときはそのときだし、いずれにせよ、未来のことを細部まで証拠立てて、あれこれ考えても、仕方ないと思う。

それにしても自分は、借金するのも嫌いだし、保険に加入するのも好きではないと、つくづく思う。来るとされる未来の時間、そんなあやふやなものを担保にすること、安心の材料にすること、それを他者と共有して、了解事項にすること、それに何かむず痒いような気まずさ、居心地の悪さをおぼえる。そんなことを言ってる人間は、ぜったいにお金持ちにはなれないのだとも思うが。

翌朝、昨日の申請先から連絡が来た。受給の手続きをしろと言う。いや、何かの間違いでしょ、手続きしたのは、前日の8月25日ですよ?と応えたら、そうでしたね、あの日はたしかに、8月25日でしたね。あれから今日で、ちょうど十年です。と言われた。えー?と思ってよくよく考えてみたら、たしかにそうだった、たしかに今日で、あれから十年経ったのだった。

ということは、自分はもう、すでに十年分を加えたその年齢に達したのだ、そのことに、いまさら気付いた。お金が支払われることよりも、自分がすでにその年齢であることに、どすんと重い負荷を、胸の内でおぼえた。ある程度、覚悟はしていたけど、まさかこんなに早く、十年後がやってくるなんて、想像もしてなかったのだ。動かないと信じていたものが、目のまえで動いている、そんな風に今こうして、ここに佇んでいる自分のことを、まるで他人のように、呆然と見つめることしかできなかった。