場所

ほとんど使われてないのに、たぶん誰かがお金払ってるから、使おうと思えば、いつでも使える、でも特に必要もないし理由もないから、誰も使わないし誰も来ない。ふだんその場所があることなんかみんな忘れている。思い出したとしてもすぐ忘れる。そんな場所を訪れると、長いこと人気なく身じろぎもしなかった空気が、ゆっくりと沈殿していて、もう何か月もの間、埃とか小さな羽虫とか、あと微生物とかだけが生き物の気配をかすかに漂わせていただけの、静寂に満ちた、がらーんとした空間が広がってるだけで、じっさい、無駄といえば無駄だけど、でもなぜか、ここにいると快適に感じる。快適というよりも、親しみのような。こういう場所はいいな、落ち着くなあと思う。一応、名目上は他人によって管理された空間で、責任者も用途もたぶん定義されているのだけど、そのまままるで機械が着実に作動した結果のように、長い年月が経ってしまった場所の独特の感じ。自然でも廃墟でもなくて、生まれてから死ぬまで、ずっとこういう場所で生きているようなものだな…とも思う。