紅葉

今年も少しずつ、紅葉してきたと妻がいう。そう言われてみれば、たしかにそうかもしれない。だって、ほら、あれ、あの木が、と言われると、ああなるほど、たしかにそうだな、と思う。あの並木がみんな、すこしずつ、きれいになってきたと言われると、ああ、たしかに、と思う。駅まで向かう途中、大きな公園を抜けていくときに、入ってすぐ左手のケヤキが、ずいぶんきれいになったと言われて、見上げるとたしかに、そうだ、ああ、たしかにそうだなあ、と言う。それとあの向こうの、建物の手前のあの木もそう、あれも毎年そうでしょ、と言われて、毎年?そうだっけ、しらない、そんなこと、よくおぼえてるな、でもたしかに、そうだな、あれは、たしかにきれいだな、いかにも、きれいに紅葉してるな、と言う。そうでしょ、先週よりも今週のほうが、より色づいて、日の当たる側だけ、吹き付けたみたいに、赤くなって、きれいになってきて、と言うので、そうだなあ、たぶん今年は、今がいちばんピークかもなあ、あれは、あの向こう側の何本かは、たしかにきれいだなあ、と言う。言われるから、そう答えるけど、言われなければ、自分だけなら、気づかないとも思う。妻は、もしかして家から駅に向かうまでの、道のりの途中で目にする樹木を、まさかとは思うが、ほぼすべて暗記している、そんなわけでもないだろうけど、それにしても、あれはどうとか、これは違うとか、個別にあれこれと、細かくそこまでよくわかるな。自分はまるで、不案内な展覧会に連れてこられて、あれが良い出来だとか、これをちゃんと見ときなさいとか、いちいち指図されている子供のような気になってくる。