生前

朝から奥さんの陣痛が始まったので今日は休ませてくださいと連絡が来た。今日彼は休みだとさ、と彼のチームメイトに伝えたら、相手もすでに知っていて了解済みとのこと。ところで陣痛って、はじまったらどのくらいで生まれるものなの?と聞いたら、それこそ人によるんですよ、奥さん次第ですね。ちなみにうちは、三十時間以上かかりましたけどね、と言う。へえ、それなら明日までかかる可能性もあるのか、でも今日中ってこともあるんでしょ?と聞くと、それがふつうですよ、とのこと。よりによって今日生まれるんなら、わかりやすい誕生日だけど、それを目指して出てくるのか一日ずらすのかそれは本人次第?それにしても昨日の夕方、彼と打合せしてた、あのときと今日からでは、これから生まれてくる子供にとってまるで意味が違う。自分が生まれた日と、自分が生まれる前との間にその子はいる。その子にとって世界は、今日か明日からはじまる。しかし現に世界は今までも続いていた。そのことがきっと、今日か明日生まれてくるその子には、信じられないことに思える。きのう会議室にいた僕たちも、まだ彼にとってとても信じられないような場所にいる存在だ。生まれたらまず、信じることからはじめるのか。