販売中

買い物のついでに、公園の梅の様子を見に行くが、まだ固い蕾がようやく芽吹き始めたばかりの段階でぜんぜん咲いてない。なんか大体同じ時期に同じ場所で、毎年のように、様子を見に来たけどまだ早かったとか言って引き返してる気がする。

野菜売り場で、カリフラワーを買いたいと思った日にはカリフラワーがなくて、カブを買いたいと思った日にはカブがない。セリの値段は異様に高い。まだずいぶん小さいけど新タマネギが売ってる。ビールは割高だとわかっていても最近は6缶パックではなくバラバラに買う。フキノトウやタラノメはさすがにまだ見かけない。ホウレンソウはなかなか美味しそう。キャベツもハクサイも立派。しかし魚売場は低調。

桜の苗木が鉢植えになって売ってる。まだ枝だけの寒々しい鉢だ。一年のうちほんの数日かそこら咲くだけの鉢植えだと思うとあまり面白くはない。花や野菜の種もたくさん売ってるけど、今の季節ではきっと発芽させるのさえ難しい。

新築住宅の前に「好評分譲中」とか書かれた幟や旗が風に揺れている。立看板に書かれた矢印の先に、長いダウンジャケットに身を包んだ男性が一人、椅子に座って、あたりを見回すでもなくスマホを見るでもなく、じっと不動の姿勢で前方を見つめたまま寒風に吹かれている。

あれはきっとあの家を「売る人」として、ああして座っている、それが仕事なのだ。この家、どうですか、僕の背後に建ってるこの家、買いませんか、この場所にあるこの家に、あなた住みませんか、この家で暮らしてみませんか、と、無言のままでひたすらそのメッセージを伝えるため、彼はそこに座っている。

この寒空の下、大して人通りもない場所にじっと座っているのは、大変そうですね。いつか誰かが、それを買いたいと申し出た日に、ようやく彼は、あの場所ら解放されるのか。そして彼のかわりに、別の誰かがやってきてあの家に住む。遅くとも野菜売り場に、春の野菜が売り出される頃にもなれば。いや、とんでもない!野菜と一緒にしないで、春までなんて、とてもじゃないけど残ってやしません。あっという間に、飛ぶように売れてしまう、お急ぎください、おそらく今日か明日には、決まってしまいますよ。