断片の声

妹からLINEで「今更だけど、お父さんの携帯電話まだ持ってる?」と聞かれた。なんでそんなこと聞くのか尋ねたら、もし写真が残ってたら、その中に姪を写したものがあるかが気になって、とのこと。なるほど、ほんとうに今更だな、僕は今まで、そんなこと思いつきもしなかった。

引き出しの奥に閉まってあった古い携帯電話と充電用の旧式のアダプターを、苦労して引っ張り出してきた。最後の通電からすでに四年、もう動かないんじゃないかと思ったけど、しばらく充電してから電源を入れたら、携帯電話は何事もなく起動して、待ち受け画面にまだずいぶん小さな頃の姪の子が表示された。端末としては正常稼働しているようだ。古めかしい液晶表示のメニューをたどって、写真と動画の記録を確認すると、思ったよりもたくさんある。なんか見るのが怖いというか、なんか嫌だなあ…と思いながら、おそるおそる一つずつ確認した。

結果的に、姪の写真は壁紙のものだけ。動画では父がたしか生前最後に上京したとき、新宿で我々と妹夫婦とで夕食の会をしたときの様子が、ほんの三十秒くらい記録されていた。ずいぶん前のことだが、さほど昔とも思わない。ああ、このときね、という感じ。

あとはほとんど大して意味のない、あるときある場所でたまたま撮られた、断片のようなものばかりだった。とくにすごい発見とか、決して知られてはいけなかった事実とか、密かに闇に葬るべき何かとか、そういうのは、とくになかった。まあ、それで良かったというか、とりあえず助かった気分。

ただしどの動画も、録画を停止する直前に、その操作主の少し粗い息遣いの、はーっとため息のような吐息が録音されていて、この感じ、その老人の気配に、うわー、、父親だなあ…と思った。なんだか、もしかしてまだ死んでないのじゃないか…と思うくらいの、それがすでに死者のものであるとは思えないような疎ましさを感じさせる声音だった。