喫煙所

商店街を歩いて駅前のロータリーに出る。エスカレーターで昇るとペデストリアンデッキが広がっていて、地上から十数メートルの位置に浮かんだ矩形の広場を人が行き交う。左手にはデパートの建物がそびえ、正面奥は駅の入り口である。柵の下では遮られて出来た影の隙間にバスやタクシーがひしめき合い、やがて人混みを避けつつゆっくりと停車場を離れようとするのが見下ろせる。デパートから出てくる人々、駅を出る人入る人、流れがぶつかり混ざり合って混沌としている。それとは別に、すこし離れた場所に別種の人だかりが出来ていて、それは喫煙所で煙草を喫う人たちの集まり。なぜかどうも僕には、あの集団が好ましいものに思える。ぱっと目に入ってきたときにそう思う。我先にと身勝手に動こうとせず、むしろいつまでもそこに立ち止まっていたい人たち、手持無沙汰で、とりあえずすることもないまま、灰皿の上でタバコの灰を落とし、狭いスペースを分け合いつつ、けして仲良くはせず、しかしお互いを遠ざけたく思う素振りでもなく、向き合ったり隣り合ったりしながらも視線は合わせず、ただたちこめる煙をかき混ぜながら、周囲からは大いに疎ましがられているか、少なくとも好意的には見られないことを察しながらも、それはそれとして、空を見上げたりうつむいたりしながら、ただその場にいる。若い男、女、中年、老人、男女、みごとにばらばら。その無関係さがいい。あんな無節操な集まり方をする人々を、喫煙所以外ではあまり見かけない。この景色全体の中であそこだけが唯一、まともな場所に思う。理由もなくわざわざ近寄ろうとまでは思わないが。