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何年か前から気に入っていて、思い出すたびにしばしば聴いていた曲を、久しぶりにまた聴こうと思って、はたと手が止まる。アルバムタイトルもアーティスト名も、まったく記憶にないということに気付く。もう数年ごしに聴いていて、わりと気に入ってる曲の付加情報をまるで知らないなんてあるだろうか。

でも、よく考えたら、曲名もミュージシャンの名前も知らないまま、それを何度も聴くのは普通のことだ。むしろ昔の方がそうだった。カセットテープなりCDなりのメディアを再生するだけなので、名前やタイトルやアルバムジャケットなどまったく知らないままで、それを気に入って聴いているようなことはいくらでもあった。

でも今のようにデータを検索して聴くなら、検索キーワードを見失ったらそれでアウトだ。ふと思い出して「最近追加したアルバム」から、その姿が消えているのに気づいたが最後、膨大なライブラリからアルバム一枚を探し出すのはきわめて難しい。なにしろ今持ち合わせている記憶としては、おぼろげなジャケット写真のぼんやりしたイメージしかないのだ。それ以外に、ほんの少しでも対象を絞り込むことのできる何の手掛かりもないのだ。

と、やや途方に暮れたが、仕方がないと覚悟をきめて、スマホ画面を指でえんえんとスクロールさせて、ライブラリの上から下まで順々に流れすぎていくアルバムジャケットの絵柄を、自分の動体視力を限界まで駆使して、まるでベルトコンベア上の不具合品を正確に見分けるロボットの如く監視し続けた。体感的には相当長時間、探した気がするのだが、ついに運良くも「これ!」というものを見つけ出すことができた。

(よく考えると、レコードやCDを棚から探すのも似たようなもので、というかおそらくそっちの方が大掛かりで大変なはずだが、デジタルデータの一覧をあたかも物理品のように探索するという行為の方に、より深い徒労感を感じてしまう。)

しかし、このアルバムはじつに素晴らしい。2019年リリースだけど、自分の二十代の頃を、しみじみ思い出させるようなサウンドだ。きっともう忘れない。