体調不良でずっと寝ているというのは、やはり心にも影響をあたえるもののようだ。心が凪になるというか、感情に起伏がなくなるというか、些末なことがことごとくどうでもいいことに思えてくる。だからそれはそれで、ある意味良いことなのかもしれないけど、ただし自分がそういった些末事を平常な日常下においては疑うことなく吸い取り、枝豆の皮みたいに余分を吐き出し、当たり前のようにそういうことで自分を律していて、そういうことが本来の自分だと思い込んでいるのもまた事実で、だからこうして無制限に寝てばかりいると、その枠組みが外れてしまって、何でもない自分がただ液状に流れ出してしまうかのような気になってくる。

とはいえ、これほどの精神的凪状態であっても、人はやたらと緊張感の高い文章とか、忙しないざわついた文章とかを書いたりもするのだろうし、逆に極度の緊張状態や不安や鬱屈した思いに苛まれていたとしても、静謐で繊細な肌理をもった文章とか、安穏の極地みたいな文章を書いたりもするのだろう。書くときは「よし、じゃあ書くか」と思って書く。それは「じゃあ出かけるか」と言っていつもの車に乗ってエンジンをかけるようなものではないか。またこの車だなと思うけど仕方がない。でも車が不調だとかえって道行きが新鮮に感じる。