朝、猛烈に眠かった。電車の中で、向かいに座っている女が、ぽけーっとした顔をして窓の外を見ている。しばらくして、またふと見ると、その女は、携帯電話の画面を熱心に見ている。またしばらくして、ふと見ると、その女は、鏡を見ながら化粧をしている。その後、しばらくしてまたみると、その女は、見事にきちんとした顔に変わっている。そして、そのまま窓の外を見ている。化粧したから、ポケーっとした顔ではなくて、少しだけ深刻そうな顔に見える。とはいえ、ほんとうに、まったく何も考えていなさそうな顔の女だ。よくある女性の自意識、見られているかもしれないことの緊張、みたいなものがまったく感じられない。視線というもの対して、ほとんど無頓着なのか。そうとでも考えないと、あの顔の表情を説明することはできないのではないか。ある意味、ちょっといい感じだ。あそこまで内面性が感じられない顔も、珍しいかもしれない。もしかしたら、ああいう顔こそが、痴呆的というのではないだろうか。じっさい、何か突き抜けたものを感じさせる。


向かいに座ってる男は、本を持ったまま眠っている。たまに起きて、顔を上げる。でもすぐにまた、がくんと頭を下げて、眠ってしまって動かなくなる。電車が次の駅に止まるたびに、はっとして頭を上げる。窓の外を見て、私の顔を見て、あたりを見回して、また寝る。その繰り返しだ。携帯のバイブでもセットしておいて、降りる駅まで、ずっと寝ていればいいのに、あんなに頻繁に、寝たり起きたりしていたら、寝たことにならないじゃないのか。本もああして、手で持ってないで、どうせ読まないんだから、鞄にしまえばいいと思うのだけど、どうなのか。寝ているときですら、ああしてがくがくと首を動かして、忙しないことだ。ああいう人は本当によく見かける。疲れるのに、自分が疲れているとか、そういう意識が無いのだろう。それで見当外れな、どうでもいいようなときに、急に思いついたように、疲れたとか、こんな筈じゃなかったとか、色々と喋り出すのだ。まったく面白いな。朝からああして、忙しない様子で、寝てるんだか起きてるんだか、まったくご苦労なことですね。