Amazon Primeでボブ・ジラルディ「ディナーラッシュ」(2000年)を観た。映画としてすごく面白いとか、そういうわけでもないのだけど、レストランという場の特長を生かしたそれぞれのエピソードの重なりが、その店という世界全体を喧噪とともに浮き上がらせていくような感じがあって(個人的には)そこが面白い。
そもそもレストランという場は、まるで船のようだと思う。甲板や客室では様々な客たちが思い思いに時間を過ごしていて、サービスだのギャルソンだのが酒や料理皿を両手に持ちながら、ごったがえす狭い客席の間をひょいひょいと通り抜けていく。やたらと楽しそうな客もいれば、不満気だったり何か言いたげだったり自己顕示欲満々だったり、さまざまな客がいる。三か月待ちの席にたどり着いた一般予約客もいれば、オーナーの計らいで簡単に席を確保される客もいる。サービス担当の作り笑顔でにこやかに客応対するサービス女性は階段を駆け下りてスタッフでごったがえす厨房にあの席の料理を急げと叫ぶ。厨房はまるで、薄暗くて燃料や油の匂いに満ちた船の機関室のようだ。船上の華やかさや優雅さのすべてを、この労働者たちがひしめく薄暗い下部構造が支えている。とはいえ彼らは全員が職人でありプロである。その技術に不足するもの、自覚の足りない者は即座にクビを言い渡されるし、軽い気持ちで各種調味料の配置を変えただけで怒号が飛ぶ。それが所定の位置にないだけで、このあとディナータイムのピークすなわち「戦争」になったら耐えられないのだからと。
厨房の戦争状態と客席の華やぎは、まるで人間の役割分担が戯画化されたかのようだ。お金を支払って悠々と楽しむ者、お金をもらって全身汗だくになって駆けずり回って彼らに奉仕する者。この「ごっこ遊び」みたいな役割分担感こそが、レストランの面白さだと個人的には思う。
この物語のレストランオーナーは、レストラン経営のかたわらギャンブルの胴元でもあったので、ヤクザと関係が切れずに色々と揉めていた。それをある手で「解決」し、あとは天才シェフの息子に店を継がせるという話で、前述したようなレストランの面白さがメインに置かれた話というわけではない。まあ、とくに取り立てて面白い部分があるとも思わなかったのだが、天才シェフの息子を演じた役者はなかなかカッコいい俳優だな…と思った。(じつは二十年前にも一度これを観ていて、そのときもそう思ったのだが、今回の再見で、やはりかっこいいけど、でもずいぶん若いな…と思った。話自体は、ぜんぜん忘れてた)。