必需

サッカーの選手が、遠くから飛んできたボールを、まるで磁石の力で引き寄せたみたいに、すとんと足元に静止させた。次の瞬間、身体の方向と足の動きとボールの動きがほどけたようになったと思ったら、すぐに一つの方向へ走り出す。そんな超絶的なフェイントによって、ボールを奪いにやって来た相手の追撃をかわし、さっさとその場を走り去った。

その一連の場面が、くりかえし再生されていた。ボールが飛んでくる。すとんと足元へ落ちる。身体、足、ボールがばらばらになって、一つになって、相手の選手が置き去りにされる。

一つ一つの技は、驚くべき神業プレイと呼ばれてしかるべきだろうけど、ここまでスゴイと、スポーツのすごさとか人間のテクニックのすごさではないように見えてくる。

何かもっと別の、たとえばある種の昆虫や小生物が擬態を使って相手の目をくらませて窮地を脱するときのような、ほとんどその生き物に固有の方法で危険を回避しつつ生きている、その自然さ、何気なさがある。

わざわざ、ことさら騒ぎ立てることのほうがおかしいみたいな、我々にとっては神業でも、その当人にとっては毎朝ポストから新聞を引き抜くのと変わらない習慣のひとつに過ぎない、これはこの人にとって、地に足の付いたある一つの生活の一側面に過ぎないのでは、と思えてくる。