負傷

けが人が乗り物で運ばれていく場面として、自分がすぐに思い浮かべるのは「マッドマックス2」の、瀕死のメル・ギブソンが、いかにも頼りない外観のオート・ジャイロで、仰向けに寝かされて空中を運搬される場面だ。

仰向けに寝ている彼の頭部は、飛行するジャイロからほとんどはみ出していて、正面から捉えられた、血みどろの、見るも無残なメル・ギブソンの真下の砂漠地帯が、飛行にともなって悠々と流れていく、まるで彼の身体が、仰向けのまま単独で空を飛んでいるかのようだ。

当の本人は、地上の景色を見下ろすことができない。朦朧とした意識でおそらく回転するプロペラを見ているだけ。身体に緩く振動を感じながら、自分がいま空中を移動していることさえ、自覚していないかもしれない。

それは負傷して運搬されるイメージでもあるだろうし、あるいはこういう移動を、子供の頃の誰もが体験したのではないかと思う。なすすべなく横たわったまま、行く先もわからないまま、ひたすら運ばれていく経験を。