Your Body's Callin'


R.Kellyの1stの1曲目。この曲もすごい良い。。ちなみに邦題は「やみつきbody」強烈なタイトルだ!…で、そんな事はどうでもよくて、子供の頃、少女漫画か何かのイラストの上にトレーシングペーパーを載せて、上から鉛筆でその女性人物像の絵をなぞったのだ。


絵柄の女性はワンピースを着ており、腰のところでベルトが締まっており、締まった部分から上下に服の皺を表す数本の線が引かれていて、腰から膝までを覆っている豊かなスカート部分にも、おおらかにたわみを表す線が弧を描いており、これをトレースしながら、ああ、こういう風に、ベルト部分を描いてそこからこういう線を描き入れると、こんな風に腰のくびれを感じさせるようで、からだの胴体から足に掛けて衣服が覆っているような、こういう絵になるのだ。という事の、例えようも無い恍惚を感じたものだ。


この恍惚は絵を描く事の嬉しさでもあり、性的な愉悦でもあるだろうが、なによりも衣服というアイテムが人に感じさせる根本的な恍惚であろう。たしかにそれはマンガの単純な絵に過ぎなかった訳だが、それでもワンピースという服の基本デザインから人が受けるかわいい可憐さを非常に単純化されたがゆえの強さで感じる事ができたのだ。衣服はからだを包み込んでおり、からだをかたどっている。衣服はからだのもうひとつ別の再現であり、僕はあれから数十年後たった今も、まだ飽きもせず衣服を描きながら、からだというか、衣服というか、なんともしれぬ何かを描く。


ところで僕は紙を支持体にして作品を作っているが、紙は水分を含ませればしっとりとたわみ、乾燥すれば強い力で丸まっていき、折れ目や破れ目によって正確な筈の矩形が崩れ、更に描き続けたり消したりしていると、土台の紙はどんどん削れて壊れてしまって、行為を成立させてくれるフィールドとしての安定性がみるみる瓦解する。たぶん紙というものは、まだ真っ白であったとしても純潔で穢れの無い「最高の状態」にある訳ではなくて、どっちかと言えば最初から既に、何かの途中段階のように存在しているっぽいので、(だからキャンバスに較べると「さあ!これから描くぞ!」という期待感に乏しい。)それゆえにある意味気安く描いていけるが、多分元々含有されてる「果てしなく続いてしまう安定した魅力」以上の何かを、作品として表出させることが結構難しい所はある。


いうなれば、既にそこにあった誰のものとも判らないドラムマシンから鳴っているリズムがあって、で、それをそれ自体として充分に耳で楽しんだ上で、さて自分の手持ちの上モノ音源を適当に組み合わせていって、結果的にかなりいい感じのダンストラックを作り上げてみよう。みたいな。紙の作業というのは、そういう既にもう、何かに成っているようなところがある。


あと「消しゴム」という非常に独特な画材のことだが、これは「描いたものを消す」でもあり「白を描く」でもあり、そして何よりも「基底部分を壊す」道具として使えるのだが、要するに僕の制作では、絵を描いていて、支持体たる紙が壊れてしまうまでに、その絵が出来れば良いと思っている部分があるかもしれない。(紙を壊す事を「演出」としてやるのは、結構な「演技力」が必要だろうから、僕は自信が無いからやらない。)僕は自分の中で、紙を支持体に描く最も強力な武器のひとつが「消しゴム」だと思う。