「Live Beck!」Jeff Beck (Reprise)


ライヴ・ベック!


しつこいようだがまた性懲りも無くジェフベックのライブアルバムについて書くのだが、…まあこの実況録音盤を最初から普通に聴いて、これではあまりにもギターがやかましすぎるのではないか?プレイヤーそれぞれのコミュニケーションによって生成されるアンサンブルが醸し出す筈のニュアンスとか、そういうテイストを全体を通じて致命的なまでに欠いていて、あたかもリハーサルのような演奏が延々続いており、これはクオリティとしてはマニア向けの域を出ない代物と言わざるを得ないのではないか?という感想が出てくるのは全く無理も無い話しで、そうかもしれませんなと深くうなずける部分もあるのだが、しかし僕はこのアルバムを聴いていると、やはりジェフベックというミュージシャンの魅力の尽きる所まさにここにしかないのでは在るまいかとの思いを更に確かなものにしてしまうのである。


何でも良いのだが、試しに6曲目に収録されているScatterbrain に耳を傾けてみよう。変態的変拍子リフから成るギター小僧垂涎の超絶技巧的運指練習にうってつけなナンバーであり、オリジナルテイクがブロウ・バイ・ブロウに収録されているのは周知の通りであるが、ここで行われている演奏は、オリジナル曲がもつ神経症的緻密さで構築されたあの感じを再現させる事が目的とされている訳では全く無いようだ。かといって、全く別の可能性に挑戦が試みられている訳でもない。その変拍子フレーズが、ほとんど投げやりと言って差し支えないほどのぶっきら棒さで弾き倒される感じというのは、なんと言うか、一言で言えば「全部台無し」な感じなのである。


しかし、この「全部台無し」な感じの独自な喜ばしさが迸っている。と言ったらまた伝わりにくいのかも知れぬが如何な物なのだろう?決して自虐とかそういう悦楽の事ではない。元々こうあるべき。という原曲の固定イメージがあるのだが、その理想形に近づく努力としてのライブ再演。という枠から逃れる事に成功しているように聴こえるという事。更に、逃れた事で別の価値となるのでもなく単に「全部台無し」な感じなのであるが、逆説的にギターという楽器を使って、ある曲のイメージを現前させる事のすべてのカラクリが露になっている感じがする。という事。とでも言ったら良いか?


…要するに、こういう事で良いのだろう?要するに、大雑把に掻い摘めば、君らが喜んでくれる感じというのは、こういう事だろう?ここですごい微妙にこんな感じで上手くやれば、拍手喝采だろう?ほんの少しでも上手くいかなければ、ちょっと歯がゆいような砂を噛むような思いだろう?と、細かく細かく聴く者に問い質して来るような感じ。しかし決してタカを括った甘い見積もりではなく、その判断力だけで納得させられてしまうような質の違いを感じさせる感じ…などというと、また例によって筆の走りすぎだろうか…。しかし、こういう異常に細かく観者にアプローチしてくるのが、ジャンルを問わず優れたクリエイターというものなのかもしれない。であるから、ここでの演奏というのは、極論すれば結果的に、演奏の完成度とか、全体の印象とか、雰囲気といったものが、あまり問題ならないような孤立した演奏なのであり、こうなると別にどのようにいい加減に演奏されてしまっても質が揺るがないような所まで行き着いてる感じがあるのだ。こうなって来ると、繰り返すがそれこそ「全部台無し」な感じであればあるほど、その内側で質を支えている骨格が感じられて、益々独自な喜ばしさが迸ってしまう。という訳だ。