マイ・バイブレーション


今月に入ってから異様に忙しい。いざという時の為に準備して蓄えておいた気持ちの余裕とか内面の許容量とかが目に見えて掬い取られて行く感じ。


何かのニュースで見たのだが、携帯電話が着信してないのに「着信してる!」と錯覚する人が多くなって来ているそうだ。あの振動の感触をカラダが憶えてしまって、何かの弾みでその記憶が間違って呼び出されてしまう。そうすると、胸ポケットに携帯が入っていれば、胸のあたりに、なぜか振動を感じてしまうのである。


何を隠そう、この僕がまさにそういう人である。外出時はやたら沢山の携帯電話を持っていて、いつも右の前ポケットに入れてるヤツが振動した場合は緊急事態だったりするので、いつも軽く不安で、ビクビクしている。日常生活では、おおよそあらゆる電子音には敏感である。電車内で携帯での会話はあまり気にならないけどある種の着信音には心臓が破裂しそうになるからやめてほしい。会社の人にお願いですからその着信音変えてくれませんか?と言った事がある。クルマがバックするときの警告音も嫌だ。ラーメン屋とかパスタの店もあんまり好きじゃない。なぜなら茹で上がりを示すタイマーの音が嫌いだからである。


…夜、軽く酔いながら歩いていて、がーっ!と着信して、ああ!来たよこれから会社戻んなきゃ!と絶望的な思いでポケットをまさぐって、それが気のせいであった事を知ったときの安堵感と言ったら無い。っていうか、じゃあ、なんであんなにリアルに振動したと感じたんだろう?…と自分を訝しく思う。でもまあ、現実に着信したときは、その場で絶望して地べたに寝っころがりたくなる程、嫌なものだが、なんだかんだ言っても堪忍して、気持ちを無理やり切り替えて、なるべく急いでさっさと仕事に移ってたりする。この辺の従順さが僕という人間の悲しさだ。いつか将来、僕の心拍が停止したら、ご臨終ですを言う前に、一度で良いから電子アラーム音を鳴らしてみて下さい。うわぁ!っつって生き返るかもしれません。