Nebulize Me


耳の調子が悪くて耳鼻科に行ったら、外耳炎ですかね?ではちょっと見せて下さいと診療室で先生に言われて耳の中を覗き込まれた。そうしたらその先生が、出し抜けにまるで何かにとり付かれたかのように突然腰を浮かし、うわぁぁ、こぉ!これはひどい!!と叫んで肩を上下させてぜいぜい息をついている。何事かと思ったら、良いですか!このモニタを良く見ていて下さい。…よく聴きなさいよく見なさい今から私の耳の中をお見せしますよ!!と云うや否や、下のほうから細い管の繋がった器具をずるずる引っ張り出してきて先端を自分の右の耳に突っ込み、拳銃自殺する時のような格好のままで、ものすごく怪しい表情をこちらに向けつつ、モニタの向きを僕の方に向けた。画面には産毛の生えた肌色の洞窟が映し出されている。。


良いですかこれが私の耳の中なんです。どうですかこの内壁の滑らかさを御覧なさいキレイなもんでしょう、薄い艶やかな皮膜が、内側を余すところなく滑らかに覆っているのがわかるでしょう。奥底に小憎らしく鎮座する鼓膜の白さが微かに反射して、内壁全体をほの明るく照らしている様子が見えるでしょう。と、ゆっくりとした口調で諭すように云い、瞬きもせずこちらを凝視している。…あまりの展開に狼狽しつつ、ええ…と素直に答えるや否や、では今度はあなただ。あなたのを見せろと云われ、同時に飛び掛ってきた二人の看護士に頭部を強く抑え付けられた。抵抗しようともしたのだが、素早い動作で既に耳の辺りに何か冷たい金属をあてがわれており、どうですどうです。これが貴方だ。貴方の耳の中ですよ!!…いやあひどいもんですね。と、先生の異様に朗らかな声が聴こえて来たので、思わず目線だけ動かしてモニタを見た。それで映像を見て「うわぁぁぁl!」と叫んでしまった。…生まれてはじめて僕は自分の耳の中を見た。それは地獄の景色だった。