朝方に目覚めて、ふたたびまどろみ、眠りと覚醒の中間あたりを漂いながら、夢を見た。僕はまだ子供だった。扉の向こうに母親の気配があった。なぜか嫌な予感がして、扉を開けたら、そこにいた母親は、たしかに母親だったが、すでに狂っていて、こちらを向くとサイレンのように甲高く咆哮して、こちらに襲い掛かってくる体勢で、僕は腰を抜かしそうになりながら元の部屋へ引き返して「うわー!」と叫んで扉を閉めようとして、じたばたと足掻いて、やがて目が覚める。隣で眠っていた妻が、僕の声におどろいて飛び起きる。悪夢を見て叫んで目を覚ますことはたまにあるけど、大抵は幽霊を見るとか、高所から落ちるとか、そんな状況がほとんどだが、子供として自分の母親を見て叫んだのは、たぶん初だと思う。よく考えたら、母親を「自分とまったく無関係な一人の女性の存在」としてその様子を想像してみるのは、かなり難しいことだ。僕は母親から「あなたはどなたですか?」と言われたことは、今まで一度もない。