夏の騒音


外出すると、大量に汗をかく。どうせ暑いからと云うので、事前にビールを一本空けて体内に流し込んでから出掛けたりするとなおさら良くない。発汗量は一層すごいし、軽い頭痛さえ招く事になる。日差しの強さと熱気はもう容赦の無い域に達している。アスファルトからの照り返しと地熱が異様なまでに立ち昇ってくる。もうこれって何か間違っているというか、人間が暮らせる状況じゃない気がする。


深い緑に覆われた桜の並木道の下に差し掛かると、蝉の鳴き声がものすごくて驚くほどだ。見上げると木の幹の所々に、本当に蝉が居る。蝉ってまだこの世の中にこんなに沢山居るものかと思う。大きな木の下に行くと、ちょっと朦朧とするくらいの圧倒的な音量が聴覚全域を圧倒する。結構びっくりする。…これ、計測器で測ったらどのくらいの音量なのだろうか?でもこれが、周囲とさほど不調和な感じがしないし、すごい騒音とかノイズとか迷惑なものという感じもしないというのは、何故なんだろう?僕なんかは、エアコンの音とか、パソコンの電源ユニットあたりのファンの音とかは、本当にイライラしてしまうのだが、蝉の声は、そういうのとは確実に違う音だ。夏だから蝉の鳴き声。という単なる先入観が、そう感じさせるだけなのだろうか?でも何か違う、もう少し音の質感に表情がある感じがする。「岩に染み入る」などという表現が可能になるような音の質感という事だろう。そういえば実家の裏の田んぼで一斉に鳴き始めるカエルの声も、これもまあ驚くほどの音量であったが、あれも齎す印象としては蝉同様である。


…まあ、こういう考え方自体が、最初からものすごくある型の中で誘導されるように考えられているのだと思うが。これって実は予想を裏切って、ほんとうは、信じられないほどものすごくウルサイ状態なのかもしれない。現実はそうなのに、それを感じていないだけで、冷静に5分も立ち止まってたら、相当イラつく程の耐え難い程の非人間的なウルサさである可能性も、ゼロではないのかもしれない。


…そんな事を思いつつ並木道を通り抜けたら、背後でいっせいに鳴き声が止んで、静寂が来る。なんで急に鳴き止んだのか?僕のせいか?いやもしかすると、自分が居る場所によって音量とか聞こえ方に、予想以上に差があるのかもしれない。