生ビールふたつ


既に日は翳って夕闇が押し寄せてきていて、ビル風の生暖かい微風が感じられる程度には暑さが引いてはいるものの、それでもあたり一面を覆うスチームサウナのような異様な熱気の充満は無くなる気配すらない。その暑いくぐもった空気の下を歩いていると意識が薄くなり足元も覚束なくなる。じっとりと濡れているシャツのカラーが首元に密着するのが気持ち悪くて、その首筋の不快さを小さなタオルで払い落とすように拭く。腕にも胸にも下半身にも大量に汗をかいている事をなるべく意識に上らせないようにして、あまり考えすぎないようにしてそのまま歩き続ける。


でも今日のメイン仕事は取り急ぎつつがなく終わったし、少し気安い安堵感も感じながら同僚と二人でやっと都心にまで戻って来たのだが、…今、飲みたいという誘惑に抗えず、次の予定場所へ向かうまでのほんの30分間の間だけ、生ビールを飲ませる適当な店を探したのだけれど、しかし見つかったのは結局、凡庸なファーストフードの店のみ。随分長く並んで順番を待たされて、やっとカウンターの前に案内されすぐ生ビールをふたつ注文したら、まだ子供のように若いアルバイトの女の子が、おそらくは研修で習った通りのやり方でややぎこちなくビアサーバから供給されている液体を柔らかいプラスチック樹脂のカップで受けている。奥に押し込めばビールが出ます、手前に引けば泡が出ます。泡は全体の2割くらいです。…そんな感じの注ぎ方を見ていて、何となくもう、そのビールに対してどうでも良い気分になって来る。隣のカウンターでは太った中年のおばさんが異様な真剣さで下を向いてメニューを睨み、注文内容を検討している。


注がれて、トレイに乗っけられて、もう、すでに気も抜けて温まっているのでは?と思われるようなしけた生ビールを、店外にある席まで運んで、二人で詰まらない思いで飲んだ。ここに座っていると、明るく照らされた店内の全景が見えるのだけど、そしたら片隅にある小さなカウンターの端にさっきのおばさんが背を丸めて座っており、注文したものを孤独に食しているのが見えた。