「女の園」


女の園 [DVD]


高峰秀子を見たかったし他にもキレイどころが出ているし、という実に単純な理由で木下恵介の「女の園」をDVDで観た。結論から云うとイマイチであった。高峰秀子演じる女子学生は学校や家との軋轢や自分に苦悩しつつ恋人との純愛を貫徹しようとして精神的に追い詰められ最期は悲劇的な結末を迎えるのだが、なにしろ時折きゃー!とヒステリーを起こしたりもするような、なるべく関わりたくないような相当鬱陶しい感じのキャラだったので、お話とは別の理由でなかなか泣けるものがあった。


しかしここでの高峰秀子を観てると、あのまん丸で顎のラインなんかもふくよかさを感じさせるような不機嫌顔とか、もっさりとしたやる気の感じられない声やモノの云い方とか、この女優は決して比類無い絶世の美女という訳ではないのだとつくづく思う。しかしなぜ、別のある映画の中では一転して、もう私の身も心も貴方のものですと云いたくなるくらいの輝かしさを発揮するのか?まったく不思議なもんです。


姫路城のてっぺんと走り行く汽車の最後尾で、恋人同士の高峰秀子と田村高広がハンカチを振り合って別れの挨拶をする場面なんかもいかにも純愛物的な、名場面!とか云いたくなるような印象というだけの事であんまり面白くなく、むしろロケ現場である姫路城周辺の景色が大変美しくてそっちばかりに目が行く。他にも1950年代の京都の町並みやお寺の境内とかも一々美しい。そういう風景をたくさん観れるのが、この映画の最大の喜びかもしれない。


中盤の、恋人同士で川原沿いの土手を並んで歩くところとか幾つかは美しいシーンがあった。やっぱ高峰秀子はロングコートだなと思う。とてもよく似合う。裾を風になびかせて猫背で歩いてるのを観ると微かに喜びが胸に宿る。。あとは畳で足を崩しているときのストッキングに包まれてぐにゃっと捻られた足がよく目に付く。これは僕が脚フェチだからではなくて、高峰秀子といったら、ロングのコート着っ放しで靴だけ脱いで畳に上がってストッキングに包まれた足首を晒す女優であると、これは昔から相場が決まっているのだ。僕の嗜好に全く関係なく昔からそうなっている。


あとは、久我美子。この映画の久我美子は、これまた駄目であった。え?この野暮ったい田舎娘みたいなのが、本当にあの「噂の女」で空間を切り裂くようなエッジの効いた素晴らしい長身を晒していた久我美子なの?と驚いた。しかし、なんでここまで野暮ったくなるものか?女学生の役だから?でも顔つきからしてもう全然駄目である。役どころとしては、生硬で青臭い正義感とかを湛えたブルジョワ左翼かぶれみたいな役どころだが、そんな設定がどうとか以前のイマイチさであった。


あとは、岸恵子はまあまあ。キレイだし、さっさとテニスウェアに着替えて廊下に出て行き障子の向こうに姿を消してしまう瞬間とかはおおー!と云うほどいい感じ。でもそれ以外、特にこれと云って印象的なところはない。自暴自棄を含んだ感じのちょっとした冒険のようなキスシーンもさほどの興味をひかない。全編、元気がよくて活発で聡明な感じはあるが、それだけである。


そうなるとまあ、この映画での出演者の女王を決めるとするなら、怖い寮監役の高峰三枝子で決定するしかなかろう・・・。超・意地悪な敵キャラであるが、誰にも云えぬ哀しい過去を引きずっていて、それを鉄面皮の下に隠していて…と、その辺の設定はこれまた実にどうでも良いのだが、でもクライマックスで久我美子の前でポロポロとガラス玉の如き大粒の涙が零れてくる瞳の、壊れた蝋人形のような表情など凄みがあってなかなか印象的であった。