吹奏楽

近所に中学校があって、日曜日の午後、おそらく吹奏楽部であろう各種楽器の練習をしている音が漏れ聴こえてくることを以前にも書いたかもしれないが、今日も買い物の途中で、けっこうはっきりと合奏の音が聴こえてきて、これ、近隣住民のみなさん、昨今こういうのいろいろうるさい人もいそうだけど大丈夫なのだろうか、でも勝手な想像だけど、このへんに住む人達は、わりあいおおらかというか、今どきの日本人的排他性のうすい、さほど神経質じゃない感じがあって、その印象の根拠としてはわりと道端に猫が多いことで、みんな飼い猫だろうが、道端とか学校の柵の向こう側とか駐車場の空いたスペースとかに、何匹か集団でたむろしていることも多く、かかる状況が許容されるにも、昨今それなりに簡単ではないだろうと想像されるからなのだが、それはともかく吹奏楽だが、あれは聴くたびに、なかなか良くて、やってる曲は歌謡曲吹奏楽アレンジされたような他愛もないやつだけど、それでも管楽器の、音の質感の違いがきれいに溶け合わさって、主旋律と通奏音、主役と脇役との関係、強弱、大小の、絡まりつつ緩やかに流れていく音楽の流れに、つい僕は感じ入ってしまい、管楽器のオーケストレーションというのは、じつに良いものだなとつくづく思う。ほんとうに良い、良いけど、…しかしこの演奏、ちょっと上手すぎないだろうか?と、ふいに気になる。もちろん超絶的な技巧とかそんな話ではなくて、ゆったりとしたテンポの、如何にも中学生の吹奏楽ですという感じには違いない、しかしあまりにも破綻なくなめらかに進行する曲を聴いていると、中学生ってこんなに楽器の演奏が上手いものだろうか?もうちょっと素人臭く聴こえても良いものじゃなかろうかと、疑念がふくらんでくる。それで妻に、これってほんとうに中学生がやってるのかな?と聴いたら、え?そうでしょ?とこともなげに応えるので、…まあ、そう思うのが妥当だが、でも聴けば聴くほど、全体が一致して整っていて破綻がなくて、元気も個性もきちんと抑制された大人な演奏に感じられて仕方ない。いやもしかして、これレコードじゃない?録音された模範演奏を再生してるとか、その音がここまで聴こえてきてるんじゃないかな?と言ったが、いや、そんなことないでしょうと否定される。たしかにスピーカーから出ている音とは考えにくい。…再生音なら、さすがにここまで大きく瑞々しく外に漏れ聴こえてこないだろう。だったらやはり中学生たちの演奏なのか、とても上手だな、というか、吹奏楽の演奏技術の上手いか下手かなんてそもそも僕にわかるのか、そこがまず自問すべきポイントである。でもそんな判断より何より、音を聴いて、ああいいねえ…と思えるんだからそれで何よりではないか。だからあの道を歩くのは今後も楽しみだが、ただ、不思議なことに毎度そうなのだが、行くときに聴こえてきても、帰路同じ道に来ると、必ずその練習は終わっている。せいぜい三十分程度で戻ってきているのに、行きも帰りも練習が続いていたことが一度もない。それも、なんとなく不思議だ。