「殺しの烙印」


殺しの烙印 [DVD]


DVDにて。うーん。これは破格にすごい。相当な量の映画的な出来事たちがみっしりと詰まっていて、とても時間が一時間半とは思えない。普通の90分の映画が含んでる情報量の2倍くらいある気がする。「ハードボイルド」と云っても、イメージされたスタイルの枠内である種の洗練を目指すとか、そういう事は露ほども興味を持っていなさそうな人たちに拠って好き勝手に、かつとことんやりたい事を練って、そのままてんこ盛りにして作られたような爽快な作品だ。


全編どこを観ても、どれもこれも面白いのだが、それらを滑らかに繋いで丁寧に全体の様相を整えようという意識がまるで希薄で、どのショットもアタマと終わりを数秒ずつ刈り込んであるのではないか?と思われるほど、各エピソードが唐突に始まり、唐突に断ち切られる。そういう異様に「人に優しくない」リズムが打撃的に刻まれていく。画面も極めて暗いので細部で何をしてんのかも結構わかり辛い。そういう「非情」(?)な感じは強い。しかし特に中盤以降の展開など心躍らずにいられない。死の恐怖と不安と馬鹿馬鹿しさと滑稽さと空虚さとの見事な渾然具合。そして観る者に息つかせる間を絶対与えさせないとでも云うかのように、あっという間に「ずらかってしまう」映画。


やっぱりこういうのを観て思うのは、作品としての面白さの向こうに何か透明な広がりを感じるという事だ。この映画がおそらく極めて強いある種の「憧れ」をモチベーションに作られているのだと思われる。これでいいのだ、これしかないのだという強烈な思い込みが全編を支配している。その思いは成果として自分に戻って来る事を計算されてたりする事がない。もうそのまま透明な空虚な場所まですっ飛んで行って良いとされている。そういう姿勢で作られていて、かつ、40年以上の月日が経った今の時代に観ても、全く古びていないのだ。


主題歌「殺しのブルース」もすごく良い。あと真理アンヌも大変良いと思います。(…でもここまで書いておいて今更だが、個人的には軽ーく苦手に感じる印象もあるにはあるのだが…)