「万華鏡」(河瀬直美DVD-BOX)


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今日家で夕食後、ぽっかりとDVD一本観れるくらいの時間ができて、でもそういうときの未だ観てない録画したストックとかはもう、わざわざ買ったりレンタルしたりしなくても、ウチに山ほど溜まっている筈なのに、妻の強烈なプッシュで「万華鏡」を観始めてしまった。河瀬直美DVD-BOXを購入したのは妻であり、本作を最初に観たのも妻であって、僕は特に興味なかったのだが、まあいいやと思って観始めたら、始まって5分か10分で、うぇーこれちょっとイタすぎない?こんなキモイの観てるの耐えられないんだけど!!みたいな事を口にせざるを得ないような気分に苛まれた。。


インドとかを放浪して来た、河瀬監督の後輩にあたるカメラマンの有元さんが、「萌えの朱雀」で主演デビューしてこれから女優として活躍していこうと頑張ってる尾野真千子と、三船敏郎の実の娘であり、やはり芸能の道を頑張っていこうとしている三船美佳を被写体に写真を撮る、という一部始終を、ずーっと後ろから河瀬監督がカメラで撮影していて、その撮影の様子がもう、見てられないくらいぎこちなくてノッてなくて、でもまあ最初はそんなもんでしょとも思うのだけど、それを河瀬先輩は事あるごとに有元君に「どうなの?今のはどうなの?思ったようにいってるの?イケテるの?そんなんでシャッター切って良いの?あんた一体何がしたいの?」と容赦なく詰め寄り、そのつど有元さんは再帰的に自己反省させられ、まあ色々とあって有元さんは撮影が進むにつれほとんど自分を見失ってパニックというか半泣き状態のまま地獄を見る思いで、その状況そのものの顔をリアルタイムで撮影されていて、それがまたいたたまれない位キツイ、みっともない自分のリフレインとして襲い掛かってくる事にも耐えつつ頑張る…みたいな感じで、被写体の尾野真千子三船美佳も、もうびっくりするくらい追い詰められて厳しい言葉を浴びせかけられて、ある意味自分を守る薄皮一枚のところまで行かされてしまう。。…まあようこんな撮影するわ、というか、ほとんど陵辱系マゾ男系エロビデオみたいな、訳のわからない情熱に裏打ちされた奇怪な内容といえなくも無い。


なにしろ河瀬さんの後輩にあたるカメラマン君の従順さというか、ある枠組みの中で一生懸命やる事にまるで疑いを持たない感じが異様で、オマエそんなに河瀬先輩が好きか?と云いたくなってしまう。尾野真千子三船美佳の二人もこれ見よがしに対立構図に嵌められて配置させられているというか、この状況で、彼女ら二人の良いとこを何か撮れと云われて、その気まずい「擬似三角関係」をまるで見てみぬ振りしたまま「カメラマンとしての良い仕事」を強要するって一体どんなプレイだよ…とか云いたくなる。


正直、有元さんが語る様々な言葉や、尾野さんの言葉や三船さんの言葉や、河瀬監督の言葉や、それらいろんな言葉たちのやりとりというか、交わりあいというのに、面白みとか所謂「有益な情報」みたいな価値はまったくない。それはもう、どこまでも凡庸な、美大生とか専門学校生とか無名の表現者たちの、生硬で青臭いどうしようもない言葉ばかりで、そりゃ僕だってどっちかって云ったらそういう類の人間かもわからんだろうから余計に聞いてて辛いし、痛い。でもこの映画におけるそういう言葉がどうとかいう話とは別に、もうどうしょうもない状況での言葉の交し合いって、まあこういう感じだよなあという瞬間がもう、ふんだんに映り込んでいるので、それだけはやはり感動させられてしまう。とくにすごいのが尾野真千子さんで、ああ女の子ってのは偉いなあ、強いなあと思う。この映画は、そういう尾野真千子さんの姿が映っている事だけでとても価値のあるものだと思う。感動できる要素があるとしたら、それは尾野真千子さんにまつわる部分だけである。


そもそもこの映画は、最初に配置された三角関係とかも踏み越えて、最初わかりあえなかったカメラマンと被写体モデルが、じょじょに心を開きわかりあっていく、みたいな、すごいわかり易い構成をもっているのだけど、でも要するにこの映画って、そんな分かり合い、とかいうのはどうでも良くて、河瀬監督が、この優柔不断で自分では判断できなくて、何やってんのよ!と叱るとしょんぼりするような後輩の男の子を、でもそれが男の子だ、という事だけで肯定しようとしているかのような映画なのだと思った。その「男子」っぷりの痛さ、恥ずかしさは、同姓としては観てるだけでキツイのだが、でも有元くんは最後、すごい無条件に優しく肯定されていく。ってか、逆にこういうだらしない、絶望的にか弱い男でも、何とか肯定しないと、逆にウチラ女も現実、もたないのよ、みたいな?そこまで云ったら考えすぎかもしれないけど、でもそういう想像さえついしてしまう。。


…不意に涙をあふれさせて、泣き出してしまう尾野真千子の肩に、有元君が優しく手を添えるのだけど、そもそも尾野さは、肩が露出したずいぶん大胆な露出度のワンピースを着せられて、不安な顔のまま歌舞伎町を歩かされたりもしていて、その惨たらしさとそれに耐えるけなげさも相当なもんだと思うが、河瀬さんにとってそういう尾野さんは、さほど庇う対象ではないのかもしれない。でも尾野さんとはもっと別のチャンネルでコミュニケーションしていて、分かり合ってるらしい。。だからそのレベルで庇ってあげるほど、河瀬さんにとっての尾野さんは弱くないのかもしれない。(あんな年端もいかない小娘なのに!すごいねえ、僕よりよっぽど強そうである。)どっちかっていうと、やっぱり有元君の方が全然弱くて、泣き出した尾野さんの肩に優しく添えられた有元君の手というのが、もはや一体、どっちが誰を庇ってるのかわからないくらいの変な状況にはなってるようにも思う。…でもこれってやっぱりそういう擬似出会い系映画だよなあと思う。最初からお膳立てするから、そうなる訳でしょうと。(であとも何だかんだ云って、また観たりするのかもしれないけど。。何しろ本作における尾野真知子は良いから。あとやっぱ、河瀬直美っていう人間もきっとすごい人間的に魅力あるんだろうと想像する。そうでもなければ、こういうのは作れないのではないか?逆に言うとそこが命みたいな作品ではなかろうか。)