ワイン


連日秋晴れが続いていて、空気の冷たさがとても快適だ、といったような事を書こうとしていた。これを書いてる今も、開けている窓の向こうからかなり冷たい空気がゆっくりと流れ込んでくる。この時期の空気はあまり感情には訴えかけてこないが、物理的にはすごく高品質なものであることは間違いないのだ。とてもひんやりとした水分をあまり多く含まない上質な空気に満ちているため、景色の透明度も高い。黄色の太い帯状の流れと、グレーの帯状の流れが均等な分量で接線をせめぎ合っている、というような事も書こうとした。


そういえば今日、信号待ちをしていて、横断歩道の歩行者用信号はずっと赤のまま点灯し続けているだけなので、それをいつまでも見続けているのが面白くないので、自分の頭上にある車両用信号を見上げていたときの、その事も書こうとした。反対側の車線にあるもうひとつの車両用信号は、ランプの周りを日除け覆いで覆われているため、何色が点灯しているのか見えなかった。だから頭上のやつだけに集中して見ていた。でも、その信号には何の変化も訪れず、いきなり歩行者用信号は青になり、待っていた僕の周りの人々は横断歩道をどんどん歩き始めた。僕は訝しい思いで、人々の後を追った。追いながらもう一度、信号を見上げた。信号の照明はか弱く、下から見上げていても今何色が点灯しているか、全然識別できないのであった。僕は、それが黄色から赤へと変わった事を目で見ることができなかったのだ。


そういうエピソードについても、書こうと思ったのだが、どれもつまらない事ばかりで、もう夜も更けて、何ひとつ面白いこともなく、さすがにウンザリしてきたところだった。


でもさっき冷蔵庫に行ったらボトル半分くらい残っているワインを発見して、その途端、あぁ、と溜息が洩れ、言葉にならないようなこの上ない喜びが溢れ出すかのように胸にこみ上げて来たのであった。