道路交通法違反


夢の中で、久々に車を運転していたのだが、なにかのはずみで、ついうっかり、手を離してしまい、はっと気付いたら、もう車は自分の手をはなれ、僕を置き去りにしたまま、ゆっくりゆっくりと、勝手に前のほうに進み始めてしまい、時既に遅しで、どうあがいてももはやどうしようもない。ほんの少しの油断が、もう取り返しのつかない事態を生んだことを悟った。前後左右にはびゅんびゅんと高速で移動する自動車がたくさんいる中、僕の車だけが、無人のままかすかに左右をふらふらしつつ、ゆっくりゆっくりと、誰の運転でもなく同じ速度を保ったまま勝手に前進しているのである。それを僕は、まるで後続車の助手席から見るようにして、無人の自分車の行く末を、見守っているのである。その状況でもはや僕には、どうすることもできない。車のなすがままである。このままだと確実に、車は勝手に道をそれて壁に激突するか、あるいは前方の車に追突するか、他の車に寄りかかるように接近して接触するか、いずれにせよこのままでは、どう考えても、大きな事故が起こる。単独事故で済めば幸運だろうが、他車を巻き込んでの複合事故を引き起こす可能性は現時点きわめて高い。というか、正直いって自分があと数十秒後か数分後かに、この僕が、あの車の行く末によっては、大きな事故の加害者になって、刑事被告人になって警察沙汰を起こして、前科一犯になるとか、取調べとか留置とか起訴とか不起訴とか、そういう話の当事者にさせられるのだという事実が、一秒間に十回くらいの間隔で事あるごとに確定事項として明滅し、それを今にわかに受け入れることの衝撃にみまわれ、それでも自分の理性が全身全霊をもって現在の状況と今後の展開をできるだけ広範囲なパターンで演算処理しようとしているのだが、すべてがどうしても受け入れられないという状態で、今目の前に起こっているできごとの信じがたさ、信じたくない気持ちが渾然となって、いわばおそろしく静かに冷静にパニックになっていて、黙ったまま、ほとんど発狂していた。