雨上がり


十二月三日。朝方の台風みたいなものすごい豪雨で駅に着くまでにバケツの水を頭からかぶったみたいに全身べたべたに濡れた。ここまで激しく濡れ鼠になったままで電車に乗っても良いものかと思ったが、ずぶ濡れなのは僕だけじゃなかったので問題なかった。しかし電車の中は酷い状況であった。でも、どんなに酷い状況にも慣れていくものだ。


会社の最寄り駅に着いたら、既に雨はあがっていて、空を見上げると、薄暗くて薄い雲がすーっと左右に切り裂かれて、その雲の裏地の挿し色みたいな薄い青色の空が丸出しに見えていた。それまでの雨にまみれたモノクロームの世界にはじめて置かれた一色目の色彩としての青のようだった。それが薄く延ばされたようにして空の中空に広がっていて、しかしまだその時点では雲と裏地と空の薄い二枚重ねに過ぎない空だったものが、次第にそうではなくなってきて、薄暗く濁った雲は上空まだ勢いを弱めていないらしい風に煽られてかなりのスピードで移動していて、青空を背景にしてそのグレーの不定形がまるで川の流れのような、川に浮かんだ灰色っぽいもやもやがどんどん流されていくようであり、それを見ていると流されていく灰色の向こうにはもっと純粋に白く輝くようなまた別の厚みをもつ雲が裏手に控えているのがほの見えて、それがときに、薄暗い雲のほんの少しの隙間から、まるで強い照明の光りのように一直線の輝きをこちらにまで届ける。さっきまでの酷い雨を降らせた薄暗い膨大な灰色の雲と、その純白の真夏の雲の、まったく異なる明るさと温度の世界が、ほんの数センチくらいしかない薄さでぴったりと重なりあっていて、ところどころ後ろ側の一部が幻想のように垣間見えるという感じだ。その一瞬の雲の白さは異様としか言いようがなく、まるで一センチくらいの破れ目から晴天の真夏の入道雲の一部がほのみえたかのようにすら思える。