ここ何年かを思い返してみても、これほど雨と曇りがくりかえし続く夏は、久しくなかったような気がする。毎年のあの、うんざりするような蒸し暑さを、今年はまだ数えるほどしか味わってない。もしかすると今日の時点で、たったの一度もないかもしれない。日中、ビルの窓から外を見下ろすと、すべての景色が、どんよりとしたダークグレーの色調に染まり切っている。景色全体が足元まで、灰色の海に沈んでしまったようにも見える。歩道を歩く人の小さな姿を見て、暗さに満ちた、これほど過酷で無機質で凄惨な世界を、ああしてたった一人で移動している、小さくて孤独な存在もあるのだと、まるで虫けらのようなその頼りなさに、見下ろしているこちらの方が心配になってきて、なぜか生きてることの侘しさをおぼえて悲しくなってくる。それでも例年の炎天よりは、薄暗くて肌寒くて物悲しい日々…の方が、まだ快適かも、などと考えるところもある。